交感神経ブロック
病気や外傷など、生体が何らかの傷害を受けると、そこで発生した信号が末梢神経から脊髄を経由して脳で痛みを感じます。
その際に、末梢の知覚神経からの信号が脊髄後角に達すると脊髄前角の自律神経である交感神経と運動神経の興奮をもたらします。交感神経の興奮は血管を収縮し、発汗を亢進させます。
運動神経の興奮は筋肉を収縮させます。その結果、傷害部位の血流は減少して虚血状態になり、筋肉は凝った状態になり、局所血流が悪化し、代謝産物蓄積、組織酸素欠乏の状態になります。
発痛物質の生成・遊離へと進み、痛みは増強し、部位も拡大していくことになるわけです。これが痛みの悪循環で、このような現象を確実に断ち切るのに最も良い手段が神経ブロックです。
知覚神経ブロックは、単に痛みを止めるだけではなく、悪循環を断ち切ることでもあり、交感神経ブロックも同様に痛みを軽減するのに極めて有効な手段となるわけです。
これらの目的に対しては局所麻酔薬を使用した神経ブロックを繰り返し施行することで達成できます。
大部分の血管は交感神経支配のみであり、交感神経の興奮により血管は収縮します。交感神経をブロック(遮断)することにより血管を拡張して血行障害を改善します。
局所の虚血状態が症状の一因と考えられる末梢性顔面神経麻痺や突発性難聴などの治療にも応用が出来ます。また、交感神経機能の遮断による発汗抑制は多汗症の治療に応用できます。
更に癌疼痛治療手段の一つとして、腹部内臓の交感神経叢である内臓神経ブロックが広く実施されています。
星状神経節ブロック
星状神経節ブロックはペインクリニックで最も頻繁に行われる治療法の一つです。星状神経節は首の下に存在する交感神経の固まりであることから、星状神経節ブロックは頚部の交感神経ブロックといえます。
頭、腕および上胸部の血管収縮を支配しており、顔面痛、頭痛の治療や頸背部の痛みや凝りが強いときの治療として用いられます。交感神経を休めることで良い効果が期待される病気や症候群にも、この治療法は効果を発揮します。
具体的には帯状疱疹、頚肩腕症候群等の痛み以外にも自律神経失調症の症状を緩和します。
当院では、超音波装置(エコー)を用いることにより正確な星状神経節ブロックを行っており、合併症の出現も最小限に抑えています。
硬膜外ブロック
脊髄は首から骨盤にいたる背骨の中を通り、硬膜に包まれて存在しています。硬膜外ブロックでは、硬膜のすぐ外側にある硬膜外腔と言う空間にまで針を進めてそこに局所麻酔薬等を注入します。
薬は硬膜に染みこんでいき、脊髄や脊髄に入る神経に作用します。知覚神経と交感神経の両者をブロック(遮断)するので痛みが止まり、血行も改善します。
硬膜外ブロックは首、胸、腰、骨盤のどこでも可能ですので、頭以外の痛みに効果があり、痛みの治療に広く応用されています。
長時間の効果を得るためには硬膜外腔に管を留置し、薬液を持続的に注入することも可能です。たとえば、帯状疱疹の痛みに対しては、数日?数週間持続的な硬膜外ブロックを行うことがあります。
神経根ブロック
神経根は脊髄から分かれて椎間孔を通り、体の表面に拡がって行き末梢神経となります。椎間板ヘルニアでは、神経根が突出したヘルニアに押されることで痛みが生じます。 神経根ブロックは、手術室でX線透視下に椎間孔を確認しながら行なわれます。最近では超音波装置(エコー)で、直接神経根を確認しながら行うこともあります。 神経根に直接針を刺し、神経に局所麻酔薬とステロイドを注入して、その神経が拡がっている部位の痛みを軽減します。顔面以外の頭部から、下肢までの痛みに対して適応があります。 当院では、パルス高周波熱凝固ブロックを使用した神経根ブロックも行っています。
腕神経叢ブロック
首~肩~腕~手に拡がっている神経は、全て首の骨(頸椎)の脊髄から枝分かれした神経根から始まっています。神経根は互いに絡み合い、首、鎖骨および脇の下で一塊となり、腕神経叢と呼ばれています。
これらの部位を超音波装置(エコー)で、直接確認ながら治療薬を注入するのが腕神経叢ブロックです。首~肩~腕~手の広い範囲の痛みに対応します。
最近では、1本1本の神経を識別して個々の神経に治療薬を注入することも行っています。
三叉神経ブロック
三叉神経は顔の知覚と一部の咀嚼筋(顎を動かす筋肉)の動きを支配しています。
3つの叉と言われているように、頭蓋骨の中にあるガッセル神経節から第1枝(眼神経)、第2枝(上顎神経)、第3枝(下顎神経)の3本に分かれています。
三叉神経をブロック(遮断)することにより顔の痛みを止めます。
顔の皮膚に近い三叉神経は、外来で治療可能です。
眼の上が痛いときは眼神経の末梢の枝の眼窩上神経ブロック、鼻の横が痛いときは上顎神経の末梢の枝の眼窩下神経ブロック、口の下が痛いときは下顎神経の末梢の枝のおとがい神経ブロックを行います。
超音波装置を使用することで正確に、高周波熱凝固ブロックを行うことで長期間効果が持続します。
これら末梢の枝でブロックしても効果が得られないときはより中枢側の上顎神経ブロック、下顎神経ブロック、ガッセル神経節ブロックを行います。
深い所に針を進めるので手技的に難しくなりますが、手術室でX線透視下に確認しながら、安全かつ正確な施行を心がけています。
高周波熱凝固ブロック
電子レンジの原理で神経に熱を発生させ、神経を凝固(半殺し)にして痛みを伝えなくする治療法です。神経が半殺し状態から立ち直るまでの間(半年~1年)、痛みを遮断します。 痛みを感じる知覚神経に有効で、多くの痛みに対応可能です。現在ではパルス高周波を使用することで、運動神経を含んだ神経の治療も出来るようになりました。
歴史
1920年 世界で初めてCushingとBovieが高周波エネルギーを医学領域に導入して、組織の凝固と切断を試みた。
1950年 AranowとCosmanは、高周波発生装置を開発した。
1974年 Williamらは高周波により三叉神経節や神経根の処置を行なった。
原理
高周波を針先の非絶縁部周辺に発生させます。針先の回りに発生した高周波は、電子レンジの原理と同様にその範囲内の組織に熱を生じさせます。
電流は周波数が高くなればなるほど人体に対する影響が小さくなります。例えば、北海道のコンセントを流れる電流は周波数50Hzですが、これを触ると知覚神経が刺激されてビリビリ感じます。
刺激周波数が2Hzでは、運動神経が刺激され筋肉が動きます。約1KHzを超すと周波数に反比例して電気刺激が小さくなり、痛みは感じなくなります。現在は、凝固変性の範囲を均一および限局させるため、500KHzの周波数に設定されています。
ちなみに
- 電気メスでは1MHz(100万)の周波数を使用
- 電子レンジに使用される電波(マイクロ波)は、2450MHz=2450×106Hz(←水分子の固有振動数)の周波数
- 水は極性分子で酸素側がマイナス、水素側がプラスの極を持つため、電波によって分子が?振動し、摩擦熱(?)を発生
豆知識:氷は振動しないため、水にならないと温度が上がらない
経皮的髄核摘出術
経皮的髄核摘出術には、stryker製のdekompressorを使用しています。Dekompressorの先端はドリル状のアルキメデス・ポンプ様構造となっていまして、これで髄核を摘出します。 髄核を摘出することで、椎間板ヘルニアの圧力を下げて神経への圧迫を取り除きます。傷は直径1.5mmの針穴のみで、低侵襲といえます。特徴は、手技料および健康保険が適応されることです。
椎間板加圧注入療法
椎間板の髄核に注射針を刺し、注射針から治療薬を注入して椎間板ヘルニアをその圧力で破る治療です。 破ることにより椎間板ヘルニアの圧力を下げて神経への圧迫を取り除き、破れた穴から漏れた治療薬が神経の周りにある痛みの物質(発痛物質)を洗い流し痛みを和らげます。 経皮的髄核摘出術と同時に行うことで、更なる治療効果が望めます。
深腓骨神経ブロック
2002年、高山 瑩医師が論文発表されています。論文では、腰の手術後のなかなか治らない母趾痛に対して足の親指と人差し指の間に注射をしたところ,偶然にもこむら返りが無くなったということでした。
使用薬剤は局所麻酔薬とステロイドを注射していました。
当院では局所麻酔薬のみの注射で行ったところ、こむら返りが90%以上消失する良好な結果を得られています。
ただし、効果があるのはこむら返りのみで、他の部位の筋肉の痙攣にはほとんど効果を認めていません。
ボツリヌストキシン(ボトックス)
ボツリヌストキシンとは筋肉を緩ませる作用のある物質で、もともとは食中毒の原因菌であるボツリヌス菌が出す毒素でしたが、これを医療用に安全に作ったのがこの薬です。
ボツリヌストキシンによる治療はどこの病院でもおこなうことができません。当院のように許可を受けた施設だけが行うことができます。
まず十分な問診と治療の説明がなされ、この治療が適応と判断された患者さんに対して行われます。もちろん患者さんの同意が必要になります。
治療は外来にて短時間で終了します。ただし登録、薬の入手に約1週間がかかりますので、初診時に予約が必要となり実際の治療は約一週間後となります。
治療の方法は、けいれんして動いている目の周りや顔の筋肉に、とても細い針で薬を注射します。痛みも少なく短時間で終了し、少し休んだ後帰宅が可能です。当日から入浴も可能で特に安静は必要ありません。
効果は1~2日してからゆっくりと現れます。その効果はおよそ3ヶ月から半年持続します。時間がたつと再発するのがこの治療法の一番の欠点です。
しかし効果が切れても再注射すれば症状はまたおさまりますので定期的な治療が必要になります。
しかし今までの治療にくらべれば患者さんとっては苦痛の少ない、有効性の高い治療法です。
超音波装置(エコー)
当院では以前より、注射による「神経ブロック治療」を用いていましたが、超音波診断装置を導入してからは関節内や筋肉、腱の調子のわるい部位を画面で確認しながら正確に針を進める方法を取り入れ効果をあげています。
適切にお薬が入れば数分以内に痛みの軽減が見られることも稀ではありません。
超音波診断装置を使った治療は、膝の病気、テニス肘、各種腱鞘炎、首の骨が原因の神経痛などにも適応が徐々に広げられ、その有効性が注目されています。
トリプタン製剤
片頭痛発作時には、脳内のセロトニンという物質が枯渇するといわれています。それにより脳内外の血管が過度に拡張して頭痛が発生します。 トリプタン製剤は拡張した血管を収縮させることによって、片頭痛を改善させると考えられています。