平均寿命が80歳を超えた現代においては「五十肩」は、中年以降であればいつでも発症しえます。多くは原因に心当たりがありません。最初はじくじくした痛みから始まります。痛いために、長期間動かさないでいると、次第に関節は凍り付いて動かない「凍結肩」といわれる状態になり、動かせる範囲がせばまり、着衣、脱衣がスムーズにできなくなります。また床に入っても痛みのため、熟眠できず日常生活に及ぼす影響が大きくなります。
しかし「肩が痛む病気」イコール「五十肩」というわけではありません。昔は肩が痛ければ五十肩といっていましたが、これは原因がわからなかったために、つけられていた側面もありました。
今日、診断技術の向上によって痛みの原因がわかるようになってきました。例えば、肩の深い所にある筋肉にキズがついたり、切れたりする「腱板断裂」、肩の筋肉に石灰が析出する「石灰性腱炎」、腕の力こぶの腱の炎症である「上腕二頭筋長頭腱炎」、骨の変形による「変形性肩関節症」、「関節リウマチ」などが代表的な肩の病気です。
それ以外にも首の骨が原因であったり、時には心筋梗塞、肺がんで肩が痛むこともあります。
これらの診断はレントゲン装置しかない時代では非常に難しかったのですが、最近はMRIや超音波診断装置などの断層撮影が普及してきていますのでかなり正確に診断できるようになってきました。
首こり・肩こり・頸肩腕症候群
仕事や勉強に打ち込んでいると、その後に強い肩こりや首こりが起こります。 また緊張して何かをやっていてもこりが起こることがあります。 誰もがなりやすい症状ですが、体が締め付けられる様で何もしたくなくなります。 症状の緩和のためには休息や入浴、軽い運動を試してみるべきでしょう。 緩和が得られない場合は、軽い鎮痛剤や安定剤を飲んでみるのもひとつの手です。 しかしそれでも治らないなら、トリガーポイントブロックが適用です。 これは痛くこりがあるところを探して(多くの場合経絡と一致します)、細い針で痛みをゆるめる薬を少量ずつ注射します。変形性頚椎症
年齢とともに首の骨が変形していくことはよくあります。 変形があっても痛みや上肢や肩の症状がなければ気にすることはありません。 肩こりや首こりの痛みが強い時に理学療法や軽い鎮痛剤を用いれば良いでしょう。 ペインクリニックでは強い症状に対して「トリガーポイントブロック」と呼ぶ注射をします。 これは痛くこりがあるところを探して細い針で痛みをゆるめる薬を少量ずつ注射します。 簡単な治療ですが大変よく効きます。頸椎椎間板ヘルニア
7個ある首の骨の中にはトンネルがあり、脳から続いている脊髄が走っています。 首の脊髄は左右に小さな神経の枝を伸ばして、肩や腕、手先に拡がっていきます。 首の骨の間にはクッションのような部分があり椎間板といいます。 椎間板の中身が何らかの原因で骨のトンネルに飛び出し、脊髄や脊髄から出た神経を圧迫すると手や肩に強い痛みやしびれが出ます。 これが頚椎椎間板ヘルニアです。頚椎椎間板ヘルニアに対しては星状神経節ブロック、腕神経叢ブロック、神経根ブロックなどの治療方法があります。 通常は星状神経節ブロック治療を10回程度続けることで痛みが軽減していきます。 最近は超音波(エコー)を用いて、より安全かつ効果的に腕神経叢ブロックが実施できるようになりました。頚部脊柱管狭窄症
首の骨(頸椎)の中には、頭と連絡する脊髄が走っています。 年齢とともに首のトンネルが細くなる方や、生まれつき狭い方は脊髄が圧迫されやすくなります。 脊髄が圧迫されれば手や肩に強い痛みやしびれが出たり、細かい作業に障害をきたします。 これには、星状神経節ブロック、腕神経叢ブロック、神経根ブロックなどの治療を行います。 治療の効果が悪い場合や歩行障害などがある場合は手術も考慮しなければなりません。後縦靱帯骨化症
後縦靱帯は脊髄が通る骨のトンネルの中にあり、骨と骨をつなぐように縦に張り付いている靱帯(堅い板状のひも)です。 この靱帯が骨化して厚くなると、脊髄を圧迫して頸部脊柱管狭窄症に似た症状を出します。 靱帯は縦方向に長くあるために多くの神経が圧迫されるため、首肩腕にかけて症状の起こる範囲が広くなります。 星状神経節ブロック、腕神経叢ブロック、神経根ブロックなどの治療を行います。胸郭出口症候群
胸郭出口症候群は首の骨から出てきた手に行く神経の束が鎖骨の下あたりで圧迫されて症状が出現します。 よくある症状は、手を肩より高い所に1分以上挙げていると手がしびれ力が無くなってきます。 たとえば電車のつり革に手を掛けていると手がしびれてどうしようもなく重くなってきます。 また高い棚に荷物を上げようとしている途中で手が重くなってきたりします。 腕神経叢ブロックが代表的な治療です。むち打ち症
むち打ち症は、医学的には外傷性頸部症候群とか頸椎(首の骨)捻挫と呼ばれています。 転落事故やスポーツ外傷に伴っても起きますが、原因の多くは交通事故です。 追突による大きな衝撃が頸椎に加わって起きます。 首を中心に頭、肩、腕、背部に痛みやしびれ、強いこりが生じます。 さらに、頭痛やめまい、耳鳴り、吐き気、疲労感を伴うことがあります。 これらは「不定愁訴(ふていしゅうそ)」と呼ばれ、本人にしかわからないつらい症状です。 レントゲン写真にもMRIにも写りません。星状神経節ブロックが代表的な治療です。クラウンド・デンス症候群
偽痛風はあらゆる関節に起りますが、特に症状が激烈なのがクラウンド・デンス症候群(環軸関節偽痛風)です。急に頚が痛み出し左右に回せなくなり、やがて前かがみもできなくなります。38度以上の発熱を伴うこともあり患者さんはとても苦しそうにして、両側の頚から肩、後頭部の痛みを訴えます。原因は首の骨の1番目(環椎)と2番目(軸椎)の関節にピロリン酸カルシウムの結晶が沈殿するために起る炎症です。CT写真でこの部分の石灰化を確認することが診断の決め手になりますが、他の関節と異なり関節内へのステロイドホルモン注入が不可能ですので、ステロイド剤の全身投与と頚椎コルセットによる固定、安静で炎症が治まるのを待ちます。
頚を動かしたり飲み込み動作でも痛みが出るために食事や飲水が不十分になりますので、点滴による脱水の補正も重要です。