当院は「痛みの診断と治療」を専門とする病院です。

腰・下肢の痛みについて

変形性膝関節症

 加齢、体重増加、下肢の筋力低下が重なると膝が痛みます。 関節の形が変形するだけでなく、関節の隙間が狭くなります。 特徴的な症状は、1)立ち上がるときに痛みがでる。2)動かない時は痛みがない。 3)階段、坂道の上り下りで痛み、特に下りの痛みが強い等です。
 太ももの筋肉を鍛えることにより自分自身の膝をサポートすることが大切です。 地道な運動訓練を6ヶ月続けると多くの人は見違えるような状態まで改善します。 しかし、運動訓練当初あまりにも痛みが強い場合は関節内へのヒアルロン酸注入術を行います。

靱帯損傷や捻挫のあとの痛み

 靱帯の損傷があるとかなり痛く、歩行は困難です。 靱帯を損傷したときに膝に激痛を感じたり音を感じたりします。 治療の基本は整形外科でギブス固定してもらうことですが、それでも痛みが持続したり悪化するときはペインクリニックの治療を受けた方が良い場合があります。

ぎっくり腰(急性腰痛症)

 ぎっくり腰の原因は、腰骨の間にある軟骨のケガである椎間板障害、腰骨を繋いでいる関節の捻挫である椎間関節症などが挙げられます。
 ぎっくり腰は突然前触れもなくおそってきます、症状の強いときはまったく身動きができなくなるほどです。
 痛みの治療としては安静が基本であり最も効果的です。若い方であれば鎮痛薬をのんで数日から一週間も安静にしていれば大部分のものは治ります。
 しかしこの忙しい時代、仕事、家事で一週間も休みを取るのはなかなか大変なことです。少しでも症状を早く改善し、仕事に復帰するために効果的なのが神経ブロック療法です。
 神経ブロック療法は痛みを止めると同時に、血流を改善し、痛みによって起こっている筋肉の緊張もほぐして治療効果を上げます。
 高齢者で治療効果がなく症状の改善が見られないときは、骨粗鬆症からくる背骨の椎体圧迫骨折や椎体椎間板の細菌による炎症などが原因のこともありますのでMRIという検査が必要です。
 不可解な症状を示す例にはCT検査を合せて行うことが大切です。単に腰痛症で受診した患者さんに、癌の腰骨への転移、腰骨の結核、腹部大動脈瘤など腰以外の病気が発見されることがしばしばあります。

椎間関節症

 椎間関節は背骨の骨をつなぐ左右一対の関節です。膝や肩の関節と同様に、骨と軟骨と周囲の靭帯(関節包)およびそれにつながる筋肉からなっています。
 椎間関節症は急性椎間関節性腰痛と慢性椎間関節性腰痛に分けられます。
 急性椎間関節性腰痛はぎっくり腰のひとつの原因ともなっています。重いものを持ち上げたり、急に体をひねったりしたときに起ります。 この際に軟骨や関節包に強い力がかかって炎症を起こし神経を刺激して痛みを発生します。
 症状の特徴としては、腰を反らしたり捻ったりすると痛んだ関節に一致した痛みが出ます。また太腿の外側に痛みが走る場合もあります。
 治療法は一般には安静、ベルト固定、消炎鎮痛薬ですが、ペインクリニックでは炎症が起っている関節に直接炎症を抑えるステロイド剤や局所麻酔薬を注入する椎間関節ブロックを行ないます。 これによって速やかに炎症は治まりますので痛みも劇的に改善します。
 慢性椎間関節性腰痛は仕事や運動で負荷がかかり続け、さらに加齢という要素も加わって変形もすすみ、関節の適合性が悪くなって常に痛みを感じる状態です。 急性の場合と同様に内服薬や椎間関節ブロックも有効ですが、現在のところもっとも有効なのは関節面に分布して痛みを発する知覚神経(後枝内側枝)のみを選択的に熱で鈍くさせる後枝内側枝高周波熱凝固ブロックが有効です。有効期間は約六ヶ月といわれていますが、一年以上も有効な症例もあります。
 その他の治療法としては、腰部交感神経ブロックがあります。 痛みを伝える神経は通常の知覚神経のほかに交感神経が関与しています。慢性期の痛みに対しては交感神経遮断による血流改善効果との相乗効果で劇的に改善する場合があります。

椎間板ヘルニア

 若い年代の腰痛症や坐骨神経痛の原因として多いのが椎間板ヘルニアです。椎間板ヘルニアは腰骨と腰骨の間にあるクッションが破れて中身が飛び出し神経に当たっているものです。
 手術に至る例は極少なく、尿や便が上手く出せない、漏れる、足に力がはいらない場合に限られます。
 椎間板ヘルニアによる痛みの大きさは神経の炎症の激しさで決まり、ヘルニアの大きさとはあまり関係がないという報告があります。 正常な神経は、先の丸いもので押しても痛みは感じません。 ところが、神経が炎症状態、すなわち頭をぶつけてたんこぶが出来ている状態ではちょっと押しただけでも強い痛みを感じます。 ペインクリニックでは炎症を鎮める薬を注射する硬膜外ブロックや、神経根ブロックを行っています。 神経ブロックによって痛みは劇的に軽くなり、痛みに悩まされる期間も短くなります。
 炎症が良くなっても痛みが続く場合、特殊な針で椎間板の中身を少し取り出し、飛び出した部分の圧力を弱める治療があります。 圧力が弱まると神経を押す力も弱まるので痛みが楽になります。 経皮的髄核摘出術椎間板加圧注入療法という方法です。 治療は2泊3日程度の入院が必要となります。通常の健康保険での治療が可能です。

脊椎圧迫骨折と骨粗しょう症

 骨粗しょう症とは骨がすかすかになって、骨がもろくなる状態のことです。 骨粗しょう症でこわいのは何かににぶつかったり、転んだ拍子に骨折をしてしまうことです。 腰の骨や、大腿骨の骨を骨折すると腰痛や寝たきりの原因となります。これは高齢者に特異的な病気ではありません。 女性に多いのですが、50代女性では10人に1人、60代では3人に1人、70代になると2人に1人は骨しょう症といわれています。 このため40代からの予防や健診が必要です。
 脊椎圧迫骨折の予防は何と言っても骨粗しょう症の予防と治療です。 骨粗しょう症が気になる方や骨折の既往がある方は当院で検査、治療、栄養指導を行っていますのでご相談下さい。

脊柱管狭窄症

 しばらく立っていたり、歩くと腰や足が痛くなったりしびれたりする症状は、腰部脊柱管狭窄症という病気かもしれません。 背骨の神経(脊髄)が通る脊柱管が狭くなる病気です。
 腰部脊柱管狭窄症には、しばらく歩いたりたっていたりすると症状が出て、少し休むとよくなることを繰り返す〝間欠跛行(かんけつはこう)〟という特徴的な症状があります。 歩くのは難しくても自転車に乗ることはできる、立って背骨を伸ばした時に腰が痛くなる、杖を使用したり、前かがみの状態では症状が出ないなどの特徴から診断されます。 子の病気はMRIという検査で確認します。
 よく似た症状を示す動脈硬化によって起る下肢の閉塞性動脈硬化症があります。
 腰部脊柱管狭窄症は三つの病型に分類されます。

 ①馬尾型  脊柱管そのものが狭いためにそこを通る神経の束(馬尾)全体が圧迫されている。
 ②神経根型 脊柱管から神経が出る孔(椎間孔)が狭くなって神経の根元(神経根)を圧迫している。
 ③混合型  馬尾型と神経根型の病態と症状が混在しているもの。

 治療では、高齢の患者さんが多いため、なるべく体に負担のない方法を考えます。 最初は薬物治療や神経ブロック療法(硬膜外ブロック)で血流を改善することから始めます。
 特にふくらはぎの引きつり(こむら返り)には深腓骨神経ブロックという治療をすると、連日連夜の痛みが嘘のように改善します。 一度の治療で二週間から一ヶ月は有効です。  神経根型の場合は、痛んでいる神経そのものを治療する神経根ブロックが非常に有効なことがあります。
狭窄が進行して神経障害が進むと、残尿や頻尿、便秘といった排尿・排便の異常や、会陰部の痛みやほてりなど思わぬ症状がでることもあります。 このような症状が出た場合には手術療法も考えなくてはいけません。

こむら返り

 皆様の中にも筋肉が、痛みを伴い急激に固くなった経験をした方がおられると思います。ふくらはぎ(こむら)に生じることが多く、こむら返りと呼ばれています。 こむら返りの70%以上は健康な人に発生して、発生後もほとんどが問題ありません。 病的なこむら返りとして変形性脊椎症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアおよびこれらの疾患に対する手術後に起こるものが知られています。 また、脱水など多くの内科的疾患も原疾患となり、スポーツ選手にもしばしば発生します。
 当院に腰下肢痛で通われている患者さんでも、こむら返りは病気ではない、治療出来ないと考えられている方が多く、こちらから聞いて初めて気がつく事があります。
  従来の治療は筋弛緩剤の投与や温熱療法などが一般的でしたが、効果はほとんど期待できませんでした。 漢方薬の効果も十分とは言えず、長期連用による副作用があり、当院でも今までは治療が困難な病気でした。 当院で深腓骨神経ブロックを行ったところ90%以上の治療効果が得られました。 このブロックは足の甲に細い針で薬を注射するだけの治療ですが、患者さんによっては1回の治療で治ってしまうこともあります。

痛風

 痛風は血液中の尿酸という物質が増えて、その結晶が足や膝の関節にたまる事によって関節炎を起こす病気です。 原因が肉類の多食ですので、忘年会や花見シーズンに多いようですが、最近の西洋化された生活では年中起こりえる病気です。
 ペインクリニックの痛風発作の治療は画期的です。 仙骨硬膜外ブロックという注射で発作の起っている関節の血流を改善し、局所の炎症物質を洗い流してしまいます。 痛みはたちどころに消え、真っ赤に腫れ上がっていた関節も見る見る正常に近づきます。普通1~3回の治療で関節症状はなくなります。
 関節症状がとれてからが痛風治療の基本です。生活指導、食事療法がその中心になります。 肉はもちろん魚の卵や白子、納豆など豆類の多食と過度の飲酒を避けて穀物や野菜中心の規則正しい食事をしなければなりません。 また、高血圧の薬などで尿酸を上げる作用のものもありますので、生活全般のチェックが必要です。 そのため当院では栄養士の専門指導を行います。食事療法で不十分な方は薬物療法をはじめます。